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WJOG4007Gの経験と若い医師へのメッセージ

Shuichi Hironaka
Profile
廣中 秀一
杏林大学医学部付属病院 腫瘍内科
フッ化ピリミジンとプラチナ製剤による併用療法に不応・不耐となった切除不能進行再発胃癌に対して、イリノテカン単独療法とパクリタキセル毎週投与法を比較するランダム化第III相試験(WJOG4007G)が行われ、試験結果が2013年にJournal of Clinical Oncology誌に掲載されました1。今回は、研究事務局を務められた杏林大学医学部腫瘍内科学 教授 廣中秀一先生に、研究立案の経緯や本研究を通して得られた経験、若手医師に向けてのメッセージをお聞きしたいと思います。
  • 山口

    WJOG4007Gの立案・実施に至った経緯を教えてください

  • 廣中

    この研究を立案した2006年当時、切除不能進行胃癌2次治療の標準治療は確立していませんでした。当時私は静岡がんセンター消化器内科に勤務していて、2次治療でのイリノテカンの単独療法やシスプラチンとの併用療法、パクリタキセル単独療法の治療成績を後方視的に解析する観察研究を行っていました。2次治療ではイリノテカンの治療成績が良いという印象を持っていましたが、同時に毒性の強い薬剤であり選択バイアスの影響が予想されたため、ランダム化比較試験が必要と考えていました。
    同じ頃、WJOGの前進団体であるWJTOG(西日本胸部腫瘍臨床研究機構)に消化器グループを作り、新たにWJOGが発足するという動きがありました。私の当時の上司である朴成和先生と現在のWJOG理事長の山本信之先生が中心となり、スムースにプロトコールを作製し、臨床試験が開始できる、フットワークの軽いグループを作ろうという意図があり、両先生のご尽力の結果、2007年にWJOGに消化器グループが発足しました。時を同じくして、2007年のASCO(米国臨床腫瘍学会)でSPIRITS試験2の結果が発表され、進行胃癌に対する本邦の1次治療の標準治療はS-1とシスプラチン併用療法となりました。この試験の結果を風の噂で聞いた頃は、ちょうど2次治療のプロトコールコンセプトを練っていたところで、本格的に本試験の実施に舵を切り、WJOG4007G試験がWJOG消化器グループの第1号の試験として始まった訳です。

  • 山口

    試験実施にあたり思い出深い点や苦労したなどいかがだったでしょうか?

  • 廣中

    まず立案のところですね。この試験は消化器グループでは初めての試験でしたし、対して呼吸器グループはランダム化第3相試験を多数やっていて、ASCOのオーラルでも何度も発表していました。特に印象的だったのは、難波のWJOGの事務所に集まって僕がこの試験のプトロコールコンセプトを説明した時に、呼吸器グループの先生も多く出席されていて。発表が終わったら、マイクの前に行列がずらっとできて…質問や意見がなりやみませんでした。デザインを何度も組みなおしました。山本信之先生、岡本勇先生、武田晃司先生には実際にプロトコール作成に関わっていただいて、議論・修正を繰り返してプロトコールを作りあげました。このように、専門領域を超えてWJOGの先生方には大変お世話になりました。
    その後2007年8月に登録を開始し、合計で223名の患者さんに参加いただき2010年8月に登録終了となりました。試験参加に同意いただいた患者さん・ご家族には心から感謝しています。2011年12月に解析結果を入手し、翌2012年6月のASCOではオーラルプレゼンテーションに採択され上田先生が発表し、同時に論文作成を進め同年10月には論文を書き上げてThe Lancet誌に投稿しました。ここまでの道のりも一筋縄ではいかなくて、特に論文は初代グループ長である兵頭一之介先生や朴成和先生と50回以上やり取りをして修正したことを覚えています。その後The Lancet誌にはrejectされますが、その後Journal of Clinical Oncology誌に投稿し、査読委員による修正を3回経たのちに2013年9月に論文がacceptされました。

  • 山口

    本試験の立案から実施・論文投稿まで本当に精力的に取り組まれていますが、先生の原動力は何だったのでしょうか?

  • 廣中

    僕は卒後3年目に国立がんセンター東病院の消化管内科で研修しました。当時の科長である朴成和先生からは、臨床研究の目的は学会発表でも論文発表でもない。もっと遠い所に目的はある。その目的は日常診療を変えることなんだよ、と言われて育てられました。そして僕自身もそれを目標にしてきました。WJOG4007G試験はこの目標がようやく叶った1番目の試験です。
    試験の影響は国内の日常診療だけに留まらず、その後行われた多数の2次治療の国際共同試験においてパクリタキセル単独療法はコントロールアーム(標準治療)とされました。つまりこの試験は日本だけでなく国際的なインパクトもあったんだなと。これは僕自身の自信にもなりましたし、同時に、WJOGの若い先生方にこの経験を還元しないといけないと思いました。

  • 山口

    現在のWJOG消化器グループの若手の印象と、若い医師へのメッセージをお聞かせください

  • 廣中

    WJOGは年次に関係なく自由に議論ができるグループで、その雰囲気は現在の消化器グループや若手会(FLAG)でも保持されていると感じています。でもそれだけでは駄目で、良い臨床試験を作るために発展的で創造的な議論をすることが重要です。FLAGの活動を見ていると、もっとできるんじゃないの、という印象を持っています。優秀な先生がたくさんいるので。昔と比べると、研究費を要する点で前向き試験を組むのが難しくなったのも良く分かりますが、もっと知恵をしぼって、日常診療を変える臨床試験を作っていってもらいたいと思っています。
    WJOGは僕にとっては部活のようなものです。年長者から若手までいて、若手は年長者に教わりながら、全員でチームを育てていく。でもその中でも上下関係をできるだけ無くして、言いたいことを議論して良いものを作っていきましょう、という部活です。この活動に共感して、臨床試験をやってみたいという方にはぜひ輪に入ってもらいたいです。WJOGでの仲間は実は一生の仲間になりますので、ぜひ若い先生をもっともっと増やして盛り上げていって欲しいと思っています。とことんまで議論しましょう!きっと楽しいことが待っていますよ!

  1. Hironaka S, et al. Randomized, open-label, phase III study comparing irinotecan with paclitaxel in patients with advanced gastric cancer without severe peritoneal metastasis after failure of prior combination chemotherapy using fluoropyrimidine plus platinum: WJOG 4007 trial. J Clin Oncol. 2013;31(35):4438-44.
  2. Koizumi W, et al. S-1 plus cisplatin versus S-1 alone for first-line treatment of advanced gastric cancer (SPIRITS trial): a phase III trial. Lancet Oncol. 2008;9(3):215-21.
廣中秀一先生(杏林大学医学部付属病院)
聞き手:山口享子(九州大学)
聞き手:川上賢太郎(恵佑会札幌病院)

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